2023年10月02日 #EXHIBITION
2023年10月02日 #EXHIBITION
場所:Gallery of Manseibashi Station (S2区画)
会期:2023年10月7日~11月24日
かつて暴走族と呼ばれた改造されたオートバイの集団と、担い手の少なくなった工芸家、ともすれば現代の日本社会で存在を不可視化されそうな当事者同士のコラボレーションによって一台のHONDA CBX400Fを制作するプロジェクトは、開始から指折り数年を数えるようになりました。その間、当初の無邪気な遊びのような制作から、様々な社会との接点、私たちが予想だにしていなかった新たな視点が加わり、ゆっくりと作品を取り巻く人々の輪が広がっています。
オートバイのカスタムには終わりはありませんが、2023年時点の工藝族車をここにお届けいたします。
■展示作品
工藝族車|(Biker Gangs & Artisan)
文化とは当初、文明開化の略語でした。
JAPAN ART BRIDGEの会場、旧万世橋駅の遺構は、百数十年前の文明開化と産業革命の肌合いを残すところです。
産業革命は、経済の目覚ましい発展にともなって私たちの暮らしを便利にし、今日の当たり前に存在する環境を作ってきました。その中で、製造物は規格化され、安価であれ、高級品であれ、私たちが目にする殆どの商品はモノとしての唯一性を取り除かれてきました。
工芸と族車、両者の共通点は、規格品に満足しない、唯一性を求める喜びであり、作り手同士のコミュニケーションの可能性であり、時には、経済の仕組みから距離をとった立場からの叛逆を内包する、個人とモノをつなぐ感情が鈍化していくことへの警告でもあります。
ところで、私たち現代の日本の大衆は、自身の文化をどのように捉えているでしょうか。文化史として語られるものは、誰がどの時点で価値を与え、誰が継承して、価値が紡がれるのか、日本に住む多くの人々が無自覚に持っている美意識や共有された不文律を示唆するものでもあり、族車と工芸の邂逅は当初の我々の意図を超え、改めて日本の文化の性質を浮かび上がらせます。
ゆっくりと消滅しつつある工芸
産業革命以降、大量生産と大量消費の時代を迎えた社会では、一部の例外を除き、手工芸は経済的価値の維持に窮し、文化的価値の維持からは教育や保護が向けられながらも、大局的には存亡の危機に瀕しています。とりわけ、本プロジェクトの多くを占める金属の成形は、もっとも工業化が進んだ分野であり、私たちの日常に置いて、手作りの金属器を手にすることは殆ど無いでしょう。
私たちが認識している金属はほぼ大量生産された金属製品と同義で扱われます。かつては鎧甲冑を作っていた金属板を叩いて成形する鍛金は、プレスや切削の機械加工技術の発達によって、資本の原理からは消滅せざるを得ない高コストの加工技術となりました。
全ての価値が価格に置き換わる現代、殆どの工芸技法は、競争力の失った技術的価値の他に、文化的な価値が見出されなければ生き残ることができず、多くの作り手は、社会的価値基準との距離を探りながら滅亡の瀬戸際で存在意義を突きつけられています。
連綿と紡がれる暴走族の様式美
元々は、ただ早く走るための行為だったオートバイの集団が個人の主張の手段に変化した暴走族の文化。加工工業として国策のように進められてきた重工業の発展は、オートバイ市場にも活況をもたらしました。また、大型・中型の法規制と、パワフルなエンジン開発需要という、相反する環境は、世界初の四気筒エンジン市販化を経て、1981年に本田技研工業から発売されたCBX400Fで一つの技術的頂点に達しました。オートバイの進化と並走してきた暴走族は、規格化された工業製品をいかに個人のオリジナリティを主張するかに工夫を凝らし、時にはメーカーでさえ把握していないエンジンの特性をハックしながら、徐々に形成された一定の様式化の中で伝統の保持と革新の精神が継承されて、欧州のラグジュアリーファッションブランドが引用するような現代に至ります。世間から隔絶された日本のアンダーグラウンドで始まった半世紀以上に渡る文化圏は、常識から逸脱した傾奇者(かぶきもの)の風俗を取り入れた歌舞伎の成立や、山車の威風を競い合いっていたねぶた祭りの歴史にも類似性が認められ、語られることの少なくなった権威や常識にやすやすと従わない日本人のもう一つの特性を映しています。
アーティスト:HUMAN AWESOME ERROR
制作協力 :ATELIER TSUNENAGA、SGS GARAGE、KAJIHARA DESIGN STUDIO、SKUNK upholstery
スペシャルサンクス:O ltd、shochikubai、須藤拓、高橋真人、筒井謙丞
人々は、一見よくできた社会システムの中に生息し、少しばかり宇宙の仕組みも分かったつもりでいる。
一方で、どれだけこの世の矛盾は見て見ぬ振りをされているだろう。
私たちは、内なる引っ掛かりを見つめ、発見したエラーを祝福し、おもしろがる行為をHUMAN AWESOME ERRORと呼ぶことにした。